Center for the Promotion of Global Education

グローバル教育推進センター交換留学マンスリーレポート

デュースブルグエッセン大学
2016年1月号 国際文化学部 R.S

①    現地の学生・友人について

 

議論や話し合いを好む人が多く、友人同士の会話であっても真面目な話題からくだらないことまで徹底的に話しつくします。私は答えのないテーマを議論するのがとても好きなのですが、日本では面倒くさく思われることもあります。しかし現地の友人はいつも暑苦しく議論に乗ってくれるのでとても楽しいです。例えば、「フォークかお箸どちらが便利か」と言うくだらない話題から、「なぜ日本人は米国を嫌いにならない」とちくりとささる話題まで真剣に議論します。「過去に2度も原爆投下の大虐殺を受け、憲法までいいようにつくり変えられ、今もなお米国に都合のよい法案が可決される。日本人はなぜ怒らない。」それを聞かれたときは、「先に手を出したのは日本であり、戦後米国の支援を受けて日本は復興することができて、経済的な繁栄をもたらしてくれた。それに、もう過去のこと。」と言う考えからか、「怒り」の感情は確かに私のなかにはそれほどありませんでした。

デュイスブルグ・エッセン大学の授業でアジアの歴史の授業がありました。その授業で、英文で翻訳された日本の歴史教科書が取り上げられ、「米国を非難する表現を見つけてください」と教授から学生に指示がありました。実際、教科書には米国を直接的に非難する表現がなく、そのことについて私は歴史教育を受けていた中学・高校時代と疑問に思うことはありませんでした。日本人の恨みの対象には米国ではなく「戦争」が第一に存在します。原爆投下も空爆も戦争がなせる業ということになります。

過去を忘れる日本と、現在も過去の罪に縛られるドイツとどちらが良いかと言う議論ではありませんが、このように自国、他国の歴史に関心を持ち、友人同士で日常的に議論し合える環境は日本には少ないと感じました。その意味で、現地の友人、学生は議論好きでとても面白いひとたちばかりです。

大学の勉強に対する姿勢も真面目です。東アジア研究科の学生は内向的な人が多いと聞いていましたが、授業中にはみんな積極的に発言をするので刺激を受けます。試験期間中は5階建ての図書館の机といすがひとつも空いていない状況があり、勉強場所を求めて多くの学生がさまよっています。

 

 

②    大晦日「ケルン集団暴行事件」

 

最近、大晦日の深夜、ケルンでの集団暴行事件が話題となっています。その概要はケルンの中央駅周辺で1000人以上の若い男性が大勢で若い女性を囲んでは、性的嫌がらせ、暴行、そして貴重品やスマホの強奪に及んだとのことです。600件以上の被害届が出ており、中には強姦のものもあります。

私がこの報道を初めて見たのは1月4日の晩でした。速報が入った場合にテレビ画面の下部に流れるテロップでそれを確認したので、それが初めての全国放送だったのだと思います。ケルンはドイツの大都市であり、被害が起こった場所もケルン中央駅のすぐ前です。それだけ大規模に犯罪が行われていたにも関わらず、なぜ初めて全国報道されたのが4日の晩だったのか、なぜ当初の発表で警察は「その晩は何事もなかった」と言ったのか疑問に思いました。当時の報道では、被害者の女性の証言では、加害者はドイツ語を話さず、アラブ、もしくは北アフリカ出身と思われる容貌の若い男性であると示されていました。後々の報道によって、警察が取り調べを行った人々の半数が難民申請者だったことが明らかになりました。

1月4日までのドイツは、難民に対して歓迎モードでした。日本と同じく少子化問題や労働力不足に悩むドイツにとって、今回の難民受け入れは打開策になるとポジティブに受け止められており、もし難民について悪く言えば「右翼ポピュリズムだ」「ナチスだ」と叩かれるような状態でした。また、難民は圧倒的な犠牲者であり、彼らを見捨てることはドイツのポリシーに反するなどの言い方をされてきました。その背景もあって、難民申請者が関わっているであろう「ケルン集団暴行事件」がメディアによって明るみになるのを防いだものと思われます。しかし、日に日に増え続ける被害届は事を隠しきれなくなり、4日の晩がメディアも政府や警察の面倒を見きれなくなった瞬間だと感じました。

4日を境に、Duisburgを含め各地の外国人排斥運動も過熱し、駅前の警察の数も極端に増えました。難民申請者のディスコやプールなどの出入りを制限するなどの規制も設けられました。最近では防犯目的の催眠スプレーや威嚇射撃用ピストルなどの小型武器携帯する市民が急増しています。以前は難民歓迎と言っていた私の周りの人たちも批判はせずとも口を閉ざすようになりました。

しかし、難民受け入れに対する否定的な見解が増える一方で、積極的な支援者の存在もあります。ベルリン・フィルハーモニーなどの名門管弦楽団が難民を歓迎するための合同演奏会を開き、難民や支援者を無料で招待すると発表しています。また、国内の36企業がシリアやイラク出身の難民に対して、積極的な受け入れ姿勢を示し、難民職業訓練や雇用促進のための活動グループを結成しました。

ケルン集団暴行事件のように他国の戦争難民を受け入れることが、結果として自国の国民を危険にさらしてしまうことになるのは不本意なことです。しかし、ドイツやオーストリアが国境を閉ざした場合、数万人の難民が国境前で立ち往生する状態になってしまうのはとてもつらい状況であり、ドイツもとりわけ葛藤している様子がうかがえます。